岡山高等学校は、岡山市南区箕島にある私立中高一貫校です。校訓の「天分発揮」のもと、個性を伸ばし、知育・徳育・体力をバランスよく発達させ、複雑化する社会に貢献できる人材の育成に力を入れています。
岡山高等学校では「総合的な探究の時間」の授業として、生徒自らがSDGsを意識したテーマを設定し実際に課題解決に取り組んでいます。
■「総合的な探究の時間」とは 探究的の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(後略) 文部科学省 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総合的な探究の時間編 |
今回は、探究活動に取り組む岡山高等学校37期2年生、中でも食と環境に関するテーマを掲げる「米作り×エシカル消費プロジェクト」チームと「L.I.O」チームに、米作りや商品開発などを通して学んだこと、伝えたい想いをお聴きました。(取材日:2022年12月)
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【米作り×エシカル消費プロジェクト】
このチームでは、岡山県の美味しいお米をいつまでも食べられるように、米作りを通してエシカル消費を広めるため活動を始めました。
エシカル消費とは、人・環境・地域などの社会問題に配慮した商品やサービスを選んで、購入・利用する消費活動のこと。例えば、フェアトレード商品を買ったり、マイバックを持参したり、地元のものを地元で消費する地産地消もエシカル消費の一つです。商品やサービスが届けられるまでの背景や過程に目を向けた消費行動は、社会問題の解決に取り組む生産者の応援にもなります。
日照時間が長く水も豊富な岡山県は、お米の産地とされています。しかし、岡山県で消費されているお米の約7割は県外産。県内産のお米は、外食産業やお酒の製造を中心に使われています。加えて、近年の外食自粛やお酒の消費減少により、岡山県のお米が余る状況に。この課題解決に向けて、岡高生自らが米の栽培・販売に取り組み始めました。
牡蠣殻を使って育てた「里海米」
栽培するのは「里海米」というお米です。品種は朝日米で、牡蠣殻を散布した田んぼで栽培しています。全国農業協同組合連合会が行う、瀬戸内海で育った牡蠣の殻を、粉砕して肥料や飼料として有効活用している「瀬戸内かきがらアグリ事業」に参加し、分けてもらった牡蠣殻を使用しています。牡蠣殻は、身と同じく栄養豊富。牡蠣殻を使って育てると…
■お米の品質がよくなる。粒も大きくなる。
■稲の根張りがよくなり丈夫に育つ。
■土壌改善が促される。
などの特長があります。また、もちもちとした食感で美味しいお米ができる上に、処分に困っている牡蠣殻を再利用できるため、環境にも良いお米となっています。
米作り×エシカル消費プロジェクトの活動は36期生の代から始まり、37期生で2年目。米の栽培だけでなく牡蠣殻を使い環境改善にも取り組む先輩の活動を自分たちも続け、次の年また次の年と後輩に繋げていきたいという想いで引き継ぎました。
瀬戸内市邑久町の田んぼを借りて、無農薬・無肥料(有機栽培)で米作りを開始。今年度は1町の田んぼに600㎏の牡蠣殻を撒き、田植え、稲刈りを経て、約3,600㎏のお米を収穫しました。加工は、パールライスに協力を依頼して、総合して令和4年産トップクラスの等級と評価されました。
農業にあまり触れてこなかった世代ですが、探究活動で里海米栽培を経験し農業に関わることができました。この探究活動を発表するときには『農業の大変さ』だけでなく、自分たちが感じた『農業の楽しい部分』をメインに伝えるようにしています。農業人口が減っている中、岡山県だけでなく全国で、農業に対して前向きな考えになることを目指しています。
岡山高校の「里海米」を広めたい
収穫したお米は、「ツバサクラ」と名付けて商品化しています。ロス食材を使って缶詰を作り子ども食堂などに届けている一般社団法人コノヒトカンプロジェクトとタッグを組み、里海米と缶詰をセットで販売してエシカル消費の啓発活動を行いました。
今年度はさらに販売に力を入れ、イオンモール岡山で里海米の販売会も実施。お米は持ち運びに苦労するため購入してもらいづらく、販売することの難しさを実感しました。それでも、「美味しかったからまた来たよ」という嬉しい声もいただいて、その日販売していた商品は完売。時間が限られた中で売りきれたときには、“やってきてよかった!”と思いました。
活動から2年が経ち、里海米のプロジェクトは少しずつ周知されてきました。今後はさらに多くの岡山県民にこの活動を知ってもらい、里海米を見かけたときに“岡山高等学校のあのお米だ”と手に取ってもらいたいと思っています。
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【L.I.O】
L.I.Oチームでは、瀬戸内海を綺麗な海にしたいという考えから探究活動を始めました。着目したのは岡山名産の海の幸「シャコ」です。シャコは岡山が産地ですが、その水揚げ量は年々減っており、1匹のサイズも小さくなっています。
原因は、瀬戸内海の環境の悪化です。高度経済成長期以降、工場や家庭の生活排水による瀬戸内海の水質汚染を減らすため、排水規制がされてきました。近年は水質が改善されてきていますが、“綺麗になりすぎた”ことによって瀬戸内海の栄養不足も深刻化。海の生き物に必要な栄養素までもが海に入らなくなりました。また、瀬戸内海は内海のため、海水が循環しにくくなっています。水中の酸素が足りない、海底に有機物が堆積して毒素がたまるといった状況が発生し、上から見えれば綺麗な海でも、海の底は豊かな環境が脅かされています。
このような瀬戸内海の課題を多くの人に情報発信できるように、課題を象徴していると考えた瀬戸内海の海底で生きるシャコに注目。「海と陸を繋ぐ」をテーマに、シャコを使った商品を開発しました。
オリジナルリゾット缶詰 「シャコ缶」
「アロス・カルドッソ・デ・マンティス・キャマロン~シャコの地中海風リゾット~」は、「海と陸を繋ぐ」のテーマあわせて、瀬戸内海産のシャコと、牡蠣殻を肥料に栽培した里海米と里海野菜(玉ねぎ)を使った缶詰のリゾットです。瀬戸内海と環境が似ている地中海をイメージして、スペイン料理の海鮮リゾット「アロス・カルドッソ」から発想を得ました。あっさりとした味のシャコは、和食に使用されることが多いですが、洋食にアレンジすることで日本だけでなく世界にもシャコの魅力が伝えたいと考えています。
試作の際には、コノヒトカンプロジェクトの三好さんにアドバイスをいただきました。シャコは高級食材なので、単価を抑えるため、どのようにすれば使用するシャコを減らしつつシャコの風味をしっかり楽しんでもらえるか試行錯誤しました。その結果、シャコの殻を粉末にして、気軽に使える「シャコパウダー」を考案。シャコパウダーは里海米に混ぜて使用しており、シャコの風味がギュッとしみ込んだやわらかい食感のお米に仕上げることができました。
一般販売用の商品ラベルは、岡高生が原案を作成し、グラフィックデザイナーの高橋舞さんによって完成しました。海をイメージした「SHAKO」と陸をイメージした「CAN」の文字を、シャコが繋いだデザインとなっています。
シャコやシャコ殻の仕入れは、浅口市寄島町でシャコの加工・卸販売を行っている「株式会社おかべ水産」に、缶詰への加工は兵庫県で小ロットの商品開発も可能な「ネクストキャンドフーズ株式会社」に協力を依頼しています。また、もらったシャコ殻は食品加工会社「株式会社MKフーズ」で乾燥・粉末にして、シャコパウダーに加工してもらっています。
LOCAL FISH CAN グランプリ2022「地域巻き込み賞」を受賞
6月から探究活動をはじめ、8月には一般社団法人全国道文化交流機構が主催する「LOCAL FISH CAN グランプリ2022」に出場しました。LOCAL FISH CANグランプリは、全国の高校生が海の課題を持つ地域の海の生物「LOCAL FISH」を題材に、オリジナル缶詰を開発するアイデアコンテストです。日本財団が取り組む「海と日本プロジェクト」の一環で、海の現状課題や未来展望を知り、海に関心を持ち、高校生自らがアクションを起こすきっかけを作るプロジェクトです。
全国の約60校がエントリーする中、本選に出場したのは11校。岡山高等学校も本選出場が決まり、より多くの地域企業と協力したチームに贈られる「地域巻き込み賞」を受賞しました。本選に進み実際に商品を生み出せたこと、さらには賞も受賞と嬉しいことも重なり、とても良い経験になりました。
LOCAL FISH CAN グランプリのほかにも、シャコリゾット缶詰をきっかけに、たくさんのイベントに参加しました。その中で、他校の高校生が取り組む活動を知る機会も増え、海の環境だけでなく様々な分野について考えを深めることができました。
瀬戸内海には、シャコ以外にも悪影響を受けている生き物がいます。シャコ缶の取り組みをきっかけに地域企業・メディアとも連携しながら、瀬戸内海が抱える課題についてさらに情報発信していきたいです。そして、海の環境に興味がある人だけに限らずより多くの人に伝え、海の再生につなげていきたいと思います。