岡山高等学校は、岡山市南区箕島にある私立中高一貫校です。校訓の「天分発揮」のもと、個性を伸ばし、知育・徳育・体力をバランスよく発達させ、複雑化する社会に貢献できる人材の育成に力を入れています。
岡山高等学校では「総合的な探究の時間」の授業として、生徒自らがSDGsを意識したテーマを設定し実際に課題解決に取り組んでいます。
■「総合的な探究の時間」とは 探究的の見方・考え方を働かせ、横断的・総合的な学習を行うことを通して、自己の在り方生き方を考えながら、よりよく課題を発見し解決していくための資質・能力を次のとおり育成することを目指す。(後略) 文部科学省 高等学校学習指導要領(平成30年告示)解説総合的な探究の時間編 |
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【岡山高校缶剛】
「瀬戸内海を豊かで綺麗な海にしたい」という考えから始まった活動は、後輩に引き継がれています。38期生「岡山高校缶剛」チームも、瀬戸内海の抱える課題について学びを深め、課題魚を使った缶詰作りを通して瀬戸内海の問題について情報発信を行っています。今年は「アイゴ」をメインの魚にしたアヒージョ缶詰レシピを開発しました。
瀬戸内海の環境とアイゴ
瀬戸内海では、人間の活動によって引き起こされた環境の変化により、水産資源が大幅に減っています。さらに、生態系のバランスが崩れたことで、瀬戸内海に生息する魚の種類も変化。これまで瀬戸内海にはいなかった魚が見られるようになりました。
しかし、日本人の食生活は地産地消のスタイルではなくなった今、獲れる魚が変わっても、新しく地元で獲れるようになった海産物を食べるようになるわけではありません。そのため漁師さんの網にかかった魚の中には、廃棄されるものも増えています。
アイゴは、もともと沖縄のあたりで獲れていた魚。海水温の上昇とともに瀬戸内海でも姿を見るようになりました。釣り人からは「バリ」とも呼ばれています。
アイゴの主食は海藻です。数が少ないうちは環境に大きな影響を与えていませんでしたが、近年は、環境改善のために瀬戸内海で再生活動が行われている「アマモ」の葉を食べてしまうことが問題となってきました。
アイゴを美味しく食べるには
魚屋さんに仕入れてもらうようお願いをして、試食させてもらいました。アイゴは漁師さんの網にかかっても廃棄されることが多く、販売ルートに乗ることはありません。初めて食べたアイゴの刺身は、脂ののった白身で甘みがあり、とても美味しいことに驚きました。
「アイゴの存在をたくさんの人に知ってもらうことでアマモ場食害問題を広く伝え、販売ルートに乗せて多く食べられるようにすることで課題解決アクションにつながる」と考えたことから、アイゴを缶詰レシピのメインにすることに決めました。
しかし、アイゴには“水揚げしてから早くさばかないと生臭さが出てくる”という特徴があます。食用として大量に販売するには向いていません。
ただ食べるだけでなく美味しく食べてもらうことで、よりメッセージが強く伝わるはずです。アイゴを美味しく食べられるようアイデアを集めるため、牛窓町にあるホテルリマーニのエグゼクティブシェフ 本行成光さんにお話を伺いました。本行さんは日生の市場で旬の素材を自分で仕入れ、素材の良さを活かした創作料理を提供しています。様々な方法で調理されたアイゴの味を比較しながら、アイデアをいただきました。
アイゴのアヒージョ缶詰
多くの方に協力を得て、試作を重ね、「ばりうま!アイゴのアヒージョ缶詰」レシピは完成しました。
岡山県の日生で水揚げされたアイゴを、魚屋さんに教えていただいた通り、アイゴは新鮮なうちに皮をとり、缶詰サイズの切り身にします。切り身はにんにくで臭みを消し、オリーブオイルで煮込みます。
試作を重ねる中で、食材としてのアイゴの特徴もわかってきました。アイゴはほかの白身魚にくらべて身が締まっていて、生の状態から煮込んでも崩れず、素材の味を味わうことができます。しかし、オイルに漬ける前にいちど焼くことで、さらに歯ごたえのある、アイゴの存在が際立つ缶詰ができました。白身魚でありながら濃厚な味わいのアイゴのアヒージョは、そのまま食べるだけではなく、パスタソースにもおすすめです。
アヒージョ缶詰に使用しているオリーブオイルは、日本のエーゲ海と呼ばれる牛窓産です。昨年度のsyako canにも同じものを使用しています。アイゴやオリーブオイルのほかにも、缶詰の具材は岡山県の日生・牛窓産にこだわりました。オリーブオイルにはレモンの皮で風味をつけて、瀬戸内らしさも感じられるさわやかな後味に仕上げています。輪切りにしたレモンを乗せて見た目にも色を添えました。
マッシュルームは、形や色が不揃いで正規品として出荷できないものを使用し、ロス削減にも貢献しています。
レシピが完成し、缶詰への加工はネクストキャンドフーズ株式会社さんに依頼しています。ラベルデザインは、デザイナーの山崎さんと一緒に、アイゴとアマモの共生をかわいいイラストで訴えるものに仕上げました。
海苔で美味しさとメッセージを込めて
そして、さらに美味しく、メッセージ性の強い缶詰にするために加えているのが「海苔」です。アイゴは、アマモだけでなく養殖海苔も食べるようになってきました。
岡山県は養殖海苔の生産量が多い地域ですが、近年は生産量と売上高は減少しています。2022年度は少し持ち直したものの、まだ不安定な状態が続いています。以前からつながりを持たせていただいている岡山県漁連さんは、この海苔の生産量減少に強い危機感を持っています。実は海苔の生産量減少には、アマモの食害だけでなく、“きれいすぎる海”になってしまった瀬戸内海の水質問題もかかわっています。海水中の窒素の濃度が低く栄養素が足りないために、海苔の色が黒くならない“色落ち“の問題も深刻です。
この“きれいすぎる海“の問題を解決しようとする動きが、「栄養塩管理計画」です。いままできれいな水を川や海に流すようにお願いしてきた工場などに、生物の成長に必要な栄養素を含んだ水を流すようにお願いするものです。まだこの取り組みも十分に知られておらず、計画実施に向けての課題も多いと学びました。
養殖海苔についての問題も情報発信できるよう、アイゴのアヒージョ缶詰レシピには、岡山県産海苔も組み合わせています。味の面でも、海苔の風味がオリーブオイルに移り、より味わい深いものとなりました。
LOCAL FISH CANグランプリ2023「優秀賞」を受賞
一般社団法人全国道文化交流機構が主催する「LOCAL FISH CAN グランプリ2023」にも出場しました。LOCAL FISH CANグランプリは、全国の高校生が海の課題を持つ地域の海の生物「LOCAL FISH」を題材に、オリジナル缶詰を開発するアイデアコンテストです。日本財団が取り組む「海と日本プロジェクト」の一環で、海の現状課題や未来展望を知り、海に関心を持ち、高校生自らがアクションを起こすきっかけを作るプロジェクトです。
今年は9校が本選に出場し、岡山高等学校は「優秀賞」を受賞しました。
さらに広く伝えるために
缶詰を通して多くの方とつながり、これまで学んできたことを伝えて“人と海の共生”を目指したいと考えています。商品の設置をお願いしたり、イベントに参加してお客様と対面でお話したり、より多くの方に瀬戸内海の課題を考えてもらうためのきっかけ作りを大切にしています。また、SNSなどのメディアを活用することも大事だと知りました。これまでのつながりを活かして、岡山からさらに広く発信していきます。