岡山市中心部より少し北東、JR西川原・就実駅から3分ほど歩くと、「クラフトビール 独歩」やレストランとショップが入った「酒工房 独歩館」の大きな看板が現れます。独歩館の横にはウイスキーやジンを作る「岡山蒸留所」、その奥には日本酒蔵やビール工場「後楽園ブルワリー」など、様々なお酒の製造場が並びます。
宮下酒造は、1915年(大正4年)に岡山県南の造船の町 玉野市で清酒の製造を始めました。1967年(昭和42年)に、今後酒造業をさらに展開していけるようにと、県都であり酒作りに最適な水も手に入る岡山市(中区西川原)へ蔵を移転しました。清酒の低迷によって、地ビール、ウイスキー、ジン、焼酎、リキュールなど、あらゆるお酒の製造に挑戦し続けています。同じ敷地内でこれだけ多種多様なお酒を製造しているという点も、先進的で特徴ある部分です。
恵まれた水流
酒造の西側には、岡山三大河川の一つ「旭川」が流れています。仕込み水には、この旭川の伏流水を地下100mからくみ上げて使用しています。水質は超軟水で、クセがなく非常に綺麗な味わいです。
代表銘柄「極聖」
全国的にみて甘口の日本酒が主流の岡山県ですが、宮下酒造ではお客様の好みや流行りの変化を取り入れて端麗辛口をモットーに、1974年から本醸造「聖」の製造を始めました。「聖」の名は、万葉の歌人大伴旅人が詠んだ和歌「酒の名を聖と負せし古の大き聖の言のよろしさ」から取りました。現在の代表銘柄は、最高峰という意味をあらわす「極(きわみ)」の文字を聖の上に冠した「極聖(きわみひじり)」に移行しています。
極聖は、令和3年酒造年度 全国新酒鑑評会で金賞を受賞。金賞受賞回数は岡山県下最多となっています。(2022年11月現在)
▼10月初めごろから新酒作りが始まる。出品吟醸と呼ばれる、お酒の鑑評会に出品されるお酒は1月・2月ごろからスタート。
▼お米を蒸す「甑(こしき)」。酒屋の朝最初の作業は、お米を蒸すところから。お米は酒造好適米の「雄町」「山田錦」と一般米の「朝日」「あけぼの」の4種類。
▼秋田杉で囲われている麹室。2部屋あり、1つは鑑評会用のお酒(出品吟醸)や高精米商品用の手造り方式、もう1つは自動化された機械製麹となっている。
▼麹は、お米を蒸してからできるまでに3日かかる。お米を蒸した後、出品吟醸や高精米商品用は手作業で進める。作業中、麹室内の温度は最大40度くらいまで上がる。真冬だが、麹室の中はぽかぽか。ここでの手造り作業は、24時間交代でつきっきり。
▼酒母室。お酒の酵母(酒母)を培養する部屋。お米と麹と酵母が混ざっている状態、1週間ほど醗酵させて元気な酵母を培養する。この後でタンクに移して仕込みを始める。
▼貯蔵室。タンクに仕込み、目で醗酵状態を確認したり、温度調節をしたりしながら醗酵を進める。2日に1回アルコール分などを自社で化学的に分析をして、より目的にあったお酒に近づける。
▼貯蔵タンク。光に当たってお酒が着色するのを防ぐため覆いをしているが、宮下酒造では先代杜氏の時代から使われている岡山らしいデニムの覆い。
地ビール「独歩」
1994年にビール製造数量の規制が緩和されたことをきっかけに、ブラウマイスターと呼ばれるビール職人をドイツから招き、岡山の地でビール作りを始めました。1995年7月から宮下酒造の地ビール「独歩(どっぽ)」の製造を開始。今では日本全国で、各地域の特色ある地ビールが作られていますが、独歩は全国で9番目、中国地方では初の地ビールとなりました。
当初はビールと聞いて一般的にイメージされる黄金色の「ピルスナー」と、ブラウン色の「デュンケル」という、ドイツでは王道のビール2種類の製造から取り組み始めました。今では約15種類のビールを作っており、肉に合うビールや岡山の特産品の牡蠣に合うビールなどバラエティーに富んでいます。
独歩は、ドイツタイプのビールをブラウマイスターの教えを守り、一歩一歩確実に「自分たちの信念をもって作っていこう」という想いを込めて名付けられた名前です。今後も、伝統的なビールやさらに特色のある味わいのビールをお届けしていきます。
大切なのは「クリーニング」
すべてのお酒作り、中でもビール作りで最も大事にしていることが「クリーニング」です。これもブラウマイスターの教えの一つで、どんなに忙しくても週に1回はビールの仕込み作業を止めて、掃除に充てています。配管内をすべて洗浄するなど、細かいところまで掃除を徹底した状態で新しいビール作りに取りかかり、高品質なビールを安定してお届けできるようにしています。
また、ビールは基本的に生ビールです。熱処理されないため、雑菌などが瓶詰めの際に入る可能性もゼロではありません。目に見えないものを扱う仕事ですので、確実に菌がいない安全な環境作りに努めています。
続けて作らず掃除で綺麗に、簡単で当たり前のことですが、怠ると味わいに影響を与える重要なポイントです。
▼麦芽を粉砕。麦芽はドイツ産。モルトミルという機械で、殻は残して中身を砕く。
▼3つのタンクで、糖化・ろ過・煮沸を行う。まずは、麦芽とお湯を混ぜて甘い麦汁にする糖化の工程。
▼麦芽殻をろ過。ブラウマイスターの教えの通り、効率と品質を考え、少しずつお湯を足してろ過を繰り返し、麦芽の中に入っている糖分を余すことなく麦汁にする。
▼醗酵室で、ビール酵母と麦汁を入れて、約1週間から10日アルコール醗酵。その後、1度~2度くらいの貯蔵室で熟成。密閉されたタンクで約1ヵ月間、低温でゆっくり醗酵させて泡を溶け込ませる。その後、不要な酵母などをろ過して瓶詰めする。
日本人らしい洋酒を
2016年に蒸留器を導入し、ウイスキーやジン、ウォッカといった洋酒も作っています。
宮下酒造の洋酒のコンセプトは、「日本らしさ」です。日本の地で日本人が作るからこそ、《こういう味がいいよね》と手に取る日本人の感覚に合った味わいをお届けすることができます。ただ作るのではなく、もうひと手間かけて日本らしさを生み出せるように試行錯誤しています。
▼蒸留所と蒸留器。独歩館のレストランからも見ることができる。
ウイスキー「岡山」
ウイスキーは、岡山県産の麦芽を使用。アルコール発酵までは自社ビール工房で一緒に作っています。そこから蒸留器に移しますが、この時のアルコール度数は約6~7度。上昇し蒸留が完了した時には65度くらいまで上がります。蒸留後は樽でゆっくりと3年以上かけて熟成し仕上げます。
クラフトジン「岡山」
ウイスキー作りのために導入した蒸留器ですが、同じ機械でジンも作れると知ったことからジンの勉強を始め、2016年から製造を始めました。それまで日本で流通していたジンは輸入物ばかり。日本国内でクラフトジンとして純国産のものを作ったのは、実は宮下酒造が初めてなのです。
ジンはウイスキーのようにベースのアルコールの規定はありません。宮下酒造のジンは、自社で作った米焼酎がベースです。普通のアルコールで作ったジンと米焼酎で作ったジンを飲み比べすると味わいが明らかに違い、米焼酎で作ったほうが奥深くなりました。
さらに、宮下酒造のジンは、地元岡山らしい個性を持ったお酒です。香りには、ジンの香りのもとであるジュニパーベリーに加えて、色々なハーブ類と岡山県産のボタニカルとして「白桃」「ピオーネの皮」「岡山県産のモルト」「生パクチー」などの計14種類を使用しています。地元にしかない香りを入れた「岡山ならでは」のクラフトジンは、複雑で華やかな香りに仕上がります。
総合酒類メーカーを目指して
宮下酒造では、今ある酒作りの知識を活かしながら、さらに新しいお酒を研究開発しています。多様なお酒を届ける総合酒類メーカーを目指し、東京や大阪の大都市圏はもちろん、アメリカ、ヨーロッパ、中国などのアジア諸国へ酒類の輸出を拡大しています。